広島地方裁判所 昭和50年(行ウ)6号 判決 1976年10月27日
広島市千田町一丁目四番一五号
原告
中道秋夫
右訴訟代理人弁護士
山本敬是
広島市可部町字四日市九四六の二
被告
可部税務署長
椋田敏幸
右指定代理人検事
下元敏晴
同法務事務官
小島正義
同大蔵事務官
岩井清
同
重村誠
主文
本件訴をいずれも却下する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
被告が昭和四八年一一月一二日付でした原告の昭和四七年分所得税の更生及び過少申告加算税の賦課決定を取消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
(被告)
一 本案前の申立
本件訴を却下する。
二 本案に対する申立
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
第二当事者の主張
(請求原因)
一 原告は、昭和四七年分の所得税につき申告期間内に確定申告をしたところ、被告は、昭和四八年一一月一二日付で、分離短期譲渡所得一一二万四三〇〇円の赤字、分離長期譲渡所得九一三万四五九三円本税一一七万七九〇〇円、過少申告加算税五万八八〇〇円とする更正処分をし、その頃原告に通知した。
原告は、昭和四八年一二月三日付で右更正処分に対する異議申立をしたところ、被告は、昭和四九年七月二日付でこれを棄却した。そこで原告は、同年七月一七日付で国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同審判所長は、昭和五〇年一月三日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同年二月一四日その旨原告に通知した。
二 しかしながら、被告の本件更正処分は、原告の所得の認定を誤つた違法があるので、その取消を求める。
(本案前の抗弁)
本件訴は、被告が昭和四八年一一月一二日付でした原告の昭和四七年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消を求めるものであるところ、国税通則法三〇条一項にいう処分時における原告の納税地を所轄する訴外広島西税務署長は、昭和五〇年一一月一一日付で原告の昭和四七年分の所得税について増額更正及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。したがつて、本件訴は次の理由により不適法である。
一 訴の利益
訴訟係属中に再更正がなされた場合、当初の更正は再更正に吸収化体されて当然その外形が消滅するものと解すべきであり、その結果、当初の更正及び加算税の賦課決定を独立の対象としてその取消を求める利益はない。
二 被告適格
当初の更正は再更正に吸収化体されて当然その外形が消滅し、独立の処分としての存在を失うのであるから、その実体的違法もまた右再更正に吸収されて、再更正の違法として審理を受けることとなるべきところ、再更正の取消を求める訴は、処分をした行政庁である広島西税務署長を被告とすべきである。
(被告の認否及びその主張)
一 請求原因第一項は認め、同第二項は争う。但し、本件更正処分による本税の額は一二〇万一五〇〇円、過少申告加算税の額は六万〇五〇〇円であつたところ、その後原告の更正の請求に基づき昭和四九年七月三日付更正によつて原告主張の額にそれぞれ減額されたものである。
二 原告の昭和四七年における総所得金額、長期譲渡所得の金額は次のとおりであり、これに基づいて算出される申告納税額は別表のとおり本件更正処分のそれを上回るから、その範囲内でなされた本件更正処分は適法である。
1 総所得金額 四三三万六四八七円
(一) 不動産所得の金額 二〇七万九四一二円
(二) 給与所得の金額 一九五万六五〇〇円
(三) 雑所得の金額 三〇万〇五七五円
(1) 右の金額は、原告の確定申告による雑所得の金額一八二万四八七五円から2記載の分譲マンシヨン七戸の販売による所得(損失)を雑所得と認定し、その金額一五二万四三〇〇円を差引いたものである。
(2) 分譲マンシヨンの販売による所得金額(損失) △一五二万四三〇〇円
収入金額 三二五六万三二〇〇円
必要経費 三四〇八万七五〇〇円
差引所得(損失) △一五二万四三〇〇円
(3) 必要経費の計算
建物(八階建)の取得費 七七〇〇万円
一階当りの取得費 九六二万五〇〇〇円
昭和四七年分の必要経費となる取得費 三三六八万七五〇〇円
9,625,000円×3.5(階)=33,687,500円
分譲マンシヨンの譲渡費用 四〇万円
2 譲渡所得の金額 一九六六万八〇九〇円
原告は、昭和四七年中にその所有する広島市千田町一丁目四番一四、同所四番一五宅地二二七、三七平方メートル(以下、本件土地という。)の上に賃貸用、分譲用(マンシヨン八戸)及び自己の居住用の建物を建設し、その内分譲用マンシヨン七戸を同マンシヨンの敷地(本件土地に対する共有持分権)とともに譲渡した。
即ち、原告は、昭和三八年二月二日本件土地及び同地上の建物を六五四万円で取得し、自己の居住用及び訴外有限会社中道不動産に対する貸店舗としていた(面積比による併用割合は、土地建物ともに各五〇パーセント)ところ、昭和四六年八月三日右建物を取壊すとともに鉄筋コンクリート造建物一棟の建築に着手し、昭和四七年五月一日これが完成した。右建物は八階建で一階(床面積一八三、七五平方メートル)を貸車庫、二、三階(床面積各一八三、七五平方メートル)を貸室、四階ないし七階(床面積各一五五、四〇平方メートル)を分譲マンシヨン、八階(床面積一三九、三六平方メートル)を原告の居宅とするものであつた。分譲マンシヨンは、各階ともA(専有面積五六、二八平方メートル)及びB(専有面積六四、五二平方メートル)の二つのタイプが各一戸(合計八戸)あり、それらはいずれも区分所有権の目的となるものである。原告は、右分譲マンシヨンのうちAタイプのものについては公簿上本件土地に対する共有持分権を二万二七三七分の九九〇、Bタイプのものについては同じく二万二七三七分の一〇五七とし、土地付区分建物「タカノ橋マンシヨン」の名称で売出し、八戸のうちAタイプ一戸を除く七戸〔土地の共有持分権の合計二万二七三七分の七一九八(以下、本件持分権という。)〕を昭和四七年中に訴外増田哲郎外六名に総額五五四〇万円で譲渡した。
右譲渡所得の金額一九六六万八〇九〇円は、本件持分権の譲渡による所得であつて、分離課税の課税長期譲渡所得金額であり、その明細は次のとおりである。
(一) 収入金額 二二八三万六八〇〇円
必要経費 二一六万八七一〇円
長期譲渡所得の金額 二〇六六万八〇九〇円
特別控除額 一〇〇万円
課税長期譲渡所得金額 一九六六万八〇〇〇円
(二) 必要経費の計算
本件土地の取得費六八五万円のうち本件持分権の割合分(二万二七三七分の七一九八)に相当する額。
3 申告納税額
以上により、総所得金額及び課税長期譲渡所得に対する申告納税額は三五一万六六〇〇円となり、その内訳は別表のとおりである。
(本案前の抗弁に対する原告の反論)
再更正処分時における原告の納税地を所轄する訴外広島西税務署長が、昭和五〇年一一月一一日付で原告の昭和四七年分の所得税について再更正及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことは認める。
一 訴の利益について
再更正処分は、税務署長が、右再更正前にした更正又は決定について調査し、課税標準等又は税額等が過大又は過少であることを知つたとき再度更正することをいうのであるから、その処分は、過大又は過少である部分についてのみなされるものであり、増額更正についていえば、国税通則法二八条二項三号は、更正通知書に記載すべき事項の一つとして「その更正に係る次に掲げる金額」として「その更正前の納付すべき税額がその更正により増加するときは、その増加する部分の税額」と規定し、増差税額が更正に係る金額であることを明らかにしている。また、更正処分、再更正処分は、いずれも税額確定のための手続であるから、既に確定されている額の部分までも含んで再び税額を確定する必要はない。国税通則法二九条によれば、増額再更正は、当初の更正処分等により既に確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさないのであり、増額再更正処分と当初の更正処分とはそれぞれ独立して併存すると解すべきである。
被告主張のとおり当初更正処分が再更正処分に吸収化体されて外形が消滅し、独立の存在を失うとすることは、再更正処分が当初更正処分により既に確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての納税義務にまでも影響を及ぼすことを意味する。そして、当初の更正処分が再更正処分に吸収化体されるとした場合、再更正処分についてこれを取消す旨の判決があつても、当初の更正処分については行訴法七条による民訴法一八六条の定めにより判決を得ることができないから、当初の更正処分は瑕疵があるにもかかわらずその効力を保持することとなる。
さらに、訴訟係属中に再更正処分がなされた場合、当初の更正処分が自動的に取消されるとの法の定めはない。
二 被告適格について
以上のとおり増額再更正処分があつても当初の更正処分はこれに吸収化体されて独立の存在を失うものではなく、また被告が本件更正処分を取消したこともない。したがつて、国税通則法八六条三項の通知もない現在、被告は依然として行訴法一一条により被告適格を有する。
理由
一 原告が昭和四七年分の所得税につき確定申告をしたとろ、被告が昭和四八年一一月一二日付で本件更正処分をし、その頃原告に通知したこと、原告が昭和四八年一二月三日付で本件更正処分に対する異議申立をしたところ、被告が昭和四九年七月二日付でこれを棄却したこと、そこで原告が同年七月一七日付で国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同審判所長が昭和五〇年一月三日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同年二月一四日その旨原告に通知したこと、その後処分時における原告の納税地を所轄する訴外広島西税務署長が、昭和五〇年一一月一一日付で原告の昭和四七年分の所得税について再更正及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことは当事者間に争いがない。
二 ところで、更正処分がなされた後に増額再更正処分がなされた場合、更正再更正ともにそれぞれ別個の処分であることは否定できないが、再更正は、当初の更正をそのままにしてこれに脱漏した部分だけを追加するものではなく、再調査により判明した結果に基づいて課税標準等及び税額等を新たに確定するものであるから、増額再更正がなされた場合には、当初の更正は増額再更正に吸収されてその内容となり独立の処分としての存在を失うに至り、その後における当該課税の当否は専ら右再更正の当否をめぐつて争われるべく、当初の更正を独立の対象としてその取消を求める利益はないというべきである。原告の主張する国税通則法の各条項も右見解を妨げる論拠とはならない。
三 以上の次第で原告の本件請求は不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中原恒雄 裁判官 浅田登美子 裁判官 上原茂行)
別表
<省略>